日本で学生時代を過ごすうえで、欠かせないもののひとつが「上履き」ですが、
「上履き」と聞いてみなさんは、どんなものをイメージするでしょうか?
「ときどき洗う、白い布の靴」
「学校の下駄箱で、外靴と履き替える靴」
「校舎内でのほとんどの時間を上履きで過ごしている。上履きを履いたまま外に出ることも、たまにある」
「かかとを踏んで上履きを履いていたら、先生に怒られた」
イメージや思い出は人それぞれですが、子ども時代や学生時代を改めて振り返ると、
上履きはかなり重要なアイテムのひとつだったことがわかります。
ほとんどの人はとくに大きな問題もなく上履きを履いて、10代後半まで続く学校生活を送り、その後「上履き」からも卒業します。
しかし、不快感や痛みなどの強いストレスを感じながら「自分に合わない上履き」を履いている子どもがいるのも事実。
その子たちにとって、合わない上履きと過ごした学生時代はときに“つらい思い出”となることもあるのです。
実際、子どもの靴を扱っている私たちのような「足と靴の専門店」には、上履きにまつわる相談が後を絶ちません。
オートフィッツ吉祥寺でも、上履きについては立ち上げ当初から、大きな課題のひとつになっていました。
相談内容として多いのは──。
「足幅が狭いので、どんな上履きも脱げてしまう」
「かかとがパカパカするので足が収まらず、かかとを踏みつけ履いてしまう」
「気がついたら、足の指が曲がっていた!」
といったもの。
成長期にある子どもの足はやわらかく、非常に変形しやすい状態です。
それゆえ、幅が広くてサイズが合わない靴でもなんとか履けてしまい、足が靴の内容に順応してしまうのです。
“本来の”自分の足に合わない靴で長時間を過ごし、ときには運動することだってあるでしょう。
さらには、その靴のまま避難しなければならないこともあるかもしれません。
そんな大事な役割をもつ「上履き」こそ、私たちがしっかりと取り組むべきアイテムではないか。
外で履く靴は自信をもって良いものをお勧めしているのに、一番長い時間履いている上履きをご用意できないなんて──! と、
方々を探したり、取引先にアイデアを出して交渉することも多々ありました。
そして、「これならば、お勧めできるのではないか」と思える上履きをいくつも取り扱ってきましたが、
それでも見つけられなかったのが「“納得のいく”幅狭細幅の上履き」でした。
四苦八苦したすえ、靴の製造工程を知る私たちは「日本の上履き製造の現状では、今よりも細い(幅が狭い)ものを作ることは大変難しい」との結論に達します。
なぜなら、幅狭細幅の靴は木型から異なるため、そこに布をしっかり沿わせて作るというのはとても手間がかかるからです。
そこで私たちは、以前から取り扱いがあり信頼しているDaumling(ダウムリング)社に相談することにしました。
ドイツでは子どもの靴にWMS (※注1) という規格があり、Daumlingはドイツ国内で最も細幅“Schmal”の靴の製造を得意としているからです。
しかし、ここからもまた、大変な手間がかかることに──!
メールで何度か事情を説明するも、日本の現状が先方に伝わっていない感触があったため、
南ドイツのフランスとの国境すぐ近くの街Dahn(ダーン)にあるDaumling本社にて社長も交え、
直接ミーティングを行うことになりました。
もちろん、日本国内でよく履かれている「上履き」も持参して。
ドイツにも「室内履き」はありますが、その靴と日本の「上履き」との違いをはじめ、
どんな状況で日本の子どもたちは上履きを使用するのか、私たちが理想とする上履きはどんなものか──
説明は多岐に渡りました。
一つひとつ説明をするたびに、Daumling社の方たちが驚かれたことは今でも忘れません!
細かいニュアンスまで伝えることができた結果、
素材探しから上履き作りに適した環境の整備まで、Daumling社が本格的に「日本の上履き」作りに乗り出してくれました。
そうして数回のサンプルを経たのち、現在の品番39071が誕生したのです!
Daumling本社でのミーティング後から数えて、制作・販売準備にかかった年月はおおよそ2年。
それくらいかかってしまうほど難しい「幅狭細幅の上履き」作りでした。
発売以降、とくに足の幅が狭く、足の厚みが薄いお子さまが「ぴったりと履ける上履き」として現在も好評を得ています。
革靴よりも製造に手間がかかるため、日本で流通している上履きに比べて、単価がどうしても高くなってしまうのが正直なところ。
しかし、上履きでありながらも、しっかりとした“靴としての構造”も持ち合わせている品番39071。
型崩れせずに、幅を合わせながらも爪先に成長余裕空間(ドイツで理想とする“捨て寸15mm”を実現!)を確保しているため、次のサイズまで安心して履き続けることができるのです。
初めて「足にぴったりと合う上履き」に出会えたというお子さまも多く、お子さま自身がこの上履きを選んでくれることも。
そんな姿を見ると、ご両親はもちろん、製作した私たちや、Daumling社の方たちも非常に安心した気持ちになれるのです。
その後、「もう少し足幅はあるけれど、かかとが小さい」お子さまや「足の甲が高いけれど、かかとが小さい」お子さま、
成長して運動靴としても使用したいお子さま向けに、再びDaumling社に出向き、1から提案・制作したモデルが品番25221です。
品番39071よりも運動靴らしい、足を覆ったデザインでベルトも太め。
ソールも運動靴のような、しっかりとしたものを採用しています。日常的に洗うケースを考え、お手入れにも強くなりました。
S幅(Schmal・細幅)に加え、M幅(Mittel・普通幅)もご用意し、より多くのお子さまの悩みを解消するオートフィッツの「上履き」ラインナップが誕生しました。
幅の狭い靴を探して遠方からお問い合わせをいただいたり、
「足に合う靴が見つからずに困っている」というご相談を今も数多くいただきますが、そういったお客さまのお悩みを解決できればと私たちは考えます。
さらに、「Daumlingの靴をより多くの方に知っていただきたい」という思いから「幅狭細幅専門 子ども靴のオンラインショップ」を開設。「オンライン計測サポート」など、便利なツールもご用意しています。
一人ひとりの子どもたちが“それぞれの足に合った靴”で、
たくさん歩いて、たくさん走って、楽しく遊べますように──!!
オートフィッツが、みなさまの靴選びをお手伝いいたします。